アールデコ期以降のティーカップ
ヴィクトリア時代後期に、ティーカップの中に残った茶殻の形や位置で、未来や運勢を占う「紅茶占い」がイギリスで流行し始めました。そのムーブメントにのって、イギリスの窯は様々なデザインの「紅茶占いカップ」を製作し始めます。特にエインズレイ窯やパラゴン窯によって、紅茶占いカップは1920~1930年代に多く販売され、女性達に人気を博しました。現在も占いカップは随時入手していますが、種類によっては複数の方にお待ちいただいているものもあります。ご相談はお気軽にお声掛けください。
約50種類の紅茶占いカップをまとめた本(写真集)『Fortune Telling Teacups イギリス紅茶占いティーカップ/ウィルク弘美』を2016年秋に出版しました。
本書では占いカップの種類や、それらを使用した各カップの正規の占い方、そして紅茶占いが流行した時代背景などをご参考いただけます。 詳しくはこちら
このシリーズは、内側の景色の絵にそれぞれタイトルがあって実在する場所が美しく描かれています。そのタイトルは、コテージガーデンなどのイギリスの一般的なお庭の景色もありますが、「ハンプトンコートの庭」など固有の場所の場合もあります。
このトリオのプレートの裏には「キラーニーの湖からの眺め」というタイトルが英語でプリントされています。下のお写真は、アイルランドに実在するキラーニーという町で、ここには豊かな森と美しい湖があります。まさにこの湖からの眺めがパラゴンらしく可愛いパステルカラーで描かれて、まるで「虹色の夢の国」がカップの中に広がっているようです。
英国王室に献上を許された高品質ボーンチャイナのメーカー、パラゴン。フラワーハンドルやバタフライハンドル、そして占いカップなど、同窯の数々の名作は私たちの心を虜にするほど可愛くて、独特の世界観がありますよね。このトリオも、とてもパラゴンらしい作品で王室献上品の複製。且つ、とてもレアなお品です。3ピースそれぞれの裏側に「パラゴンがクィーン・メアリーのために創ったセットのレプリカ(複製) 紫陽花」と、パラゴンらしい淡いグレーの綺麗な筆記体でプリントされています。
クィーン・メアリーとは、メアリー・オブ・テック。ジョージ5世のお妃です。第一次世界大戦の間も国王や国政をサポートし続け、国民を直接見舞ったりと、王妃としての責務を誠実に果たしたメアリー王妃はイギリス国民から人気がありました。その王室の気品と格式を尊重する姿勢から、ヴィクトリア女王も生前は彼女をとても信頼していたといいます。
パラゴンらしい滑らかで美しいボーンチャイナに、つるるんとした釉薬の艶がなんとも綺麗な磁胎です。淡く細いグレーで紫陽花ひとつひとつの花がプリントされており、ハンドペイントで色が塗られています(手彩色)。その色彩はまるで水彩のように透明感があり、もうすぐ100年となる月日を感じさせないほど綺麗な発色を保っています。
色は中心から明るくも品のあるピンクが淡いラベンダー色に変わっていくグラデーション、これがまた優しい雰囲気を醸し出しています。同カップは現代になってウェッジウッドがハーレクィーンシリーズの一つとしてリプロダクションを販売していますが、そちらの方は全てがプリントで、ここまでの優しい色味と繊細なグラデーションは再現されていません。満開の紫陽花だけでなく、アールデコ期の作品ならではのスクエアシェイプのソウサーやプレート、それに珍しいデザインのハンドルもお楽しみください。